総合心理教育研究所

佐藤隆の特別講座

SPECIAL COURSE

厚生労働省の4つのケアとは何か

厚生労働省指針におけるメンタルヘルスの4つのケア

企業におけるメンタルヘルスケアの重要性

従業員のメンタルヘルスを推進していくためには、従業員の取り組みに加えて、企業の行うメンタルヘルスケアの積極的推進が重要であり、職場における組織的かつ計画的な対策は、心の健康の保持促進を進める上で重要な活動と考える。

1.従業員の健康保持促進(職場ストレス増加に伴い)
前述の厚生労働省の調査にも顕著にあらわれているようストレスを抱えながら働いている従業員が増加している。ストレス要因は仕事、職業、生活、家庭、地域等に存在している。心の健康づくりは従業員自身がストレスに気付き、これに対処すること(セルフケア)の必要性を認識することが重要である。
しかし、従業員の働く職場には従業員自身の力だけでは取り除くことができないストレス要因が存在している。経営環境の厳しさ、競争の激化、デジタル化推進による新しい知識・技術の習得が不可欠になるなど、今後も従業員一人一人が新しい変化に対応し、変革に邁進していかねばならない。その際に従来に感じ得なかったストレスを感じることがあるやもしれない。メンタルヘルス不全については、進行した場合、休業日数が長いのが特徴であり、そのために早期のケアが必要である。
従業員の健康保持促進を図る上で、心の健康づくりにおけるメンタルヘルスへの取り組みは大きく重要になってくる。

2.危機管理としてのメンタルヘルス対策
最近は、精神障害や過労自殺に関して、企業が従業員に対する健康管理上の安全配慮義務を怠ったために発生したとして訴えられる労災民事事件で企業に賠償を求める判決が増えてきている。平成10年度の精神障害の労災認定件数は4件であったが、平成11年度  14件、平成12年度36件、平成13年度70件と急増している。
また、厚生労働省は平成13年には、過労死につき、長時間の蓄積疲労の影響を認め、その評価期間を概ね6ヶ月とし、疲労に蓄積要因となる残業時間の目安として、「発症1ヶ月前に100時間以上、あるいは月平均80時間以上」を示した「脳血管疾患及び虚血性心疾患等に認定基準について」を示した。
更に、日常的な健康管理に関しては、平成14年に「過重労働による健康障害防止のための総合通達」を出し、前述の過労死新認定基準を踏まえ、長時間労働の実態にある企業に対する監督指導などによって健康障害防止を図っていくとともに過労死等を発生させた事業場にあって法令違反が認められる場合は刑事処分を追求することを指摘している。このように従業員の健康(心の健康)に対する企業の責任が厳しく問われるようになってきており、企業は授業員にとって過度な負担とならぬように、十分に配慮しなければならず、適切なメンタルヘルスサービスを提供することを求められている。

3.健康な組織つくりのために
今後、厳しい競合に打ち勝っていくための大きな変革を実現していくためには、一人一人の従業員のモラールを高め、一つ一つの組織が生産性や業績を高めていかねばならない。
そのためには、従業員が心身ともに健康であり、仕事に意欲的に取り組むことができるような組織であれば、従業員の能力を十分に発揮することができ、生産性や創造性が高まり、良い業績が期待できる。
組織の健康なくして、個人の健康も成立せず、また、個人の健康なくして、組織の健康も成立しない。従業員の健康と組織の業績は相反するものではなく、相互作用を通じてお互いに強化されていくものである。
メンタルヘルス対策においても、個人の健康対策のみならず、職場全体の健康度の向上が求められ、困難な状況でも明るく、前向きな職場風土をどう計画的に作り出すかが重要である。

メンタルヘルスケア推進にあたっての留意事項
メンタルヘルスケアへ取り組んでいくにあたって、基本的に下記の留意事項について事前に学んでおきたい。
1.心の健康問題の特性
心の健康については、客観的な測定方法が十分確立しておらず、その評価は容易でなく、更に、心の健康問題の発生過程には個人差が大きく、そのプロセスの把握が難しい。
心の健康不全については、誰で陥る可能性のある状態であるのに、個人への偏見や不当に低い評価に結びつく恐れがある。早期対応すれば、十分な休養と薬による治療によって大部分が治るにもかかわらず、その偏見があることによって解決が難しくなっているのも事実である。メンタルヘルスケアがうまく成功する必要な条件の一つは、あらかじめ教育研修にてこのような偏見を職場から払拭しておくことである。

2.個人のプライバシーへの配慮
メンタルヘルスケアを進めるにあたっては、従業員のプライバシーの保護及び従業員の意思尊重に留意することが重要である。心の健康に関する情報の収集及び利用にあたっての、個人のプライバシー等への配慮は、授業員が安心して心の健康づくり対策に参加できること、ひいては、職場の心の健康づくり対策がより効果的に推進されるための条件である。

3.人事労務管理との関係
従業員の心の健康は、体の健康と比較し、職場配置、人事異動、職場の組織等の人事労務管理と密接に関係する要因によって、より大きな影響を受ける。メンタルヘルスケアは人事労務管理者と連携しなければ、適切に進めない場合が多いである。

4.家庭・個人生活等の職場以外の問題
心の健康問題は、職場の問題のみならず家庭・個人生活等の職場外の問題の影響を受けている場合も多くある。また、生育環境からくる性格上の要因等も心の健康問題に影響を与え、これらは複雑に関係し、相互に影響しあう。そのため、セルフケア能力向上などにより、個人生活も含めた心の健康増進に繋がることが期待される。

厚生労働省の「心の健康づくりのための指針」の基本的な考え方
H12年に厚生労働省が出した「事業所における労働者の心の健康づくりのための指針」においては、メンタルヘルスケアの具体的な内容として次の4つのケアを継続的、計画的に推進していくことを定めている。
① セルフケア
従業員自身による ・ストレスへの気づき ・ストレスへの対処
② ラインによるケア
管理監督者による ・職場環境の改善 ・個別の指導、相談等
③ 事業場内産業保健スタッフによるケア
産業医・衛生管理者による ・職場実態の把握 ・個別の指導、相談等
・ラインによるケア支援 ・管理監督者への教育
④ 事業場外資源によるケア
事業場外資源による ・直接サービスの提供 ・支援サービスの提供 ・ネットワークへの参加

そして、その推進のため、次の取り組みを行うことを求めている。
① 管理監督者に対してメンタルヘルス教育研修を行うこと
② 職場環境等の改善を図ること
③ 労働者が自主的な相談を行いやすい体制を整えること

(1)セルフケア(労働者自ら行うストレスへの気づきと対処)
・ストレスおよびメンタルヘルスに関する基礎知識
・ストレスへの気づき
・ストレスの予防、軽減およびストレスの対処方法
・自発的な相談の有用性
・事業所場の相談先および事業場外資源に関する情報
・メンタルヘルスに関する方針

労働者が有効にセルフケアを行うために上記項目に対する教育研修、情報提供を行うとともに、上司や専門家に対して相談できる体制づくりをすること

(2)ラインによるケア(管理監督者によるケア)
従業員と日常的に接する管理監督者が、心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応ができるような環境を整備することがケアを推進する短???するために重要である。
・職場環境の改善
従業員の心の健康には、職場環境(作業環境、作業方法等)だけではなく、労働時間、仕事の質と量、職場の人間関係、職場の組織、管理体制、文化や風土等の改善を図る必要がある。
・従業員の相談対応(リスナーマインド研修等)
管理監督者は、日常的に従業員からの自主的な相談に対応するように努めること。特に長時間労働などにより過労状態にある従業員、強度の心理的負荷を伴う出来事を経験した従業員、その他特に個別の配慮が必要な従業員から、話を聞き、適切な情報を提供し、必要に応じ事業場内産業スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促すよう努めること。

ポイント:誰しもがノイローゼ状態や健康を損なう可能性がある。心の病はプライバシーであり、人事や上司に知られたくないと思っていることも事実である。コンプライアンスや個人情報を守らず、むやみに個人の疾病の部分に介入したり、あるいは障害に対する偏見を助長するようなことがあってはならない。メンタルヘルスの名ばかりの推進の結果、かえって職場のストレス増進運動になりかねない。しかし、現に悩み苦しみサポートを求めている人がいるのも事実であり、問題があるのに気づかず放任することは、職場管理の放棄にもなり労働衛生管理上の問題となってしまう。もちろん職場の生産性の低下にも繋がる。管理職は部下の健康に最大限の安全配慮をしなければならない。リスナーマインドが求められる(図は管理職リスナー研修後のストレス・傾聴法の効果測定)。
(3)事業所内健康管理スタッフによるケア(産業医、カウンセラー、人事部門)
・職場環境等の改善
職場巡視による観察、職場上司、労働者からの聞き取り調査、ストレス調査などにより、職場のストレス要因を把握して、管理者に対してその改善を助言するとともに、管理者と協力してその改善に努めること
・従業員に対する相談対応等
管理者と協力して労働者の気づきを促し、保健指導、健康相談等を行うこと。心理相談担当者による心理相談を通じて心の健康に対する従業員の気づきと対処を支援すること
・職場適応、治療、および職場復帰の指導
管理者と協力して従業員の職場適応の支援、専門的な治療が必要な場合の支援、休業中の授業員の職場復帰についての指導、支援すること
・ネットワークの形成および維持

個別従業員に対する相談対応等.ネットワークの形成、ラインによるケアへの支援、教育研修の実施等をする。産業保健スタッフ等(医療スタッフ型・相談診療活動)は、事業場の心の健康づくり対策の推進を担い、従業員及び管理監督者を支援相談室する。カウンセリングルームの実態、首都圏メンタルヘルス相談室の実態、来談経路80%上司、職場で早期発見と予防、業務効率と適応向上、再発防止と復帰援助。

(4)事業場外資源によるケア
・事業場外資源
地域産業保健センター、都道府県産業保健推進センター、健康保険組合、労災病院勤労者メンタルヘルスセンター、中央労働災害防止協会、労働者健康保持増進サービス機関等、精神科・心療内科等の医療機関、地域保健機関(精神保健福祉センター、保健所、市町村等)各種相談機関(労働衛生コンサルタント、産業カウンセラー、臨床心理士、精神保健福祉士等)
・事業場外資源とのネットワークの形成
事業場外産業保健スタッフ等は窓口となって事業場外資源とのネットワークを日頃から形成しておくこと

求められているメンタルヘルスソリューション :メンタルヘルスアプローチ。
1.効果的な成功事例
組織が行うストレスマネジメント、A社10年間の効果測定、H社の試み、N社30年のメンタルヘルス測定、カナダストレス研究所例/個人A課長の第1次予防の例。
2.職場復帰支援

メンタルヘルスを進めるにあたっての安全衛生担当者の役割
1.目標を決める(推進者が非常に大事なメンタルヘルス成否の決定因子となる自覚を持つ)
2.企画案を出す(体制整備、事業場の問題点の把握、必要な人材確保等)
3.コンプライアンス(従業員のプライバシーの確保等) 」
4.担当者の選出、委員会の組織化、時間、予算の確保と明確化と組織化
5.4つのケアをイベント的ではなく、段階的に短期、中期、長期で計画的に進めていく
6.フィードバックを科学的、客観的にする(産業標準値との回帰、有意差、共分散構造分析等)
7.よきアドバイザーを持つ(最小の費用で最大の効果、産業標準値との回帰解析等を活用する)

職場復帰支援プログラム
メンタルヘルスにおける欠勤・休職および復職について
メンタルヘルス不全になった社員については欠勤・休職および復職は以下のように取り扱われるのが一般的と思う。
1. 就業規則上では私傷病欠勤
この私傷病欠勤が引き続いた場合は、休職扱いとなる。
その期間は、勤続年数により休職期間が決まる。例えば、勤続年数10年以上は私傷病欠勤が1年6ヶ月に及ぶ時等のようになっている。
2. 休職期間は以下のようになっている。
例えば、勤続5年以上は1年6ヶ月等。
3. メンタルヘルス不全になった社員の休職からの復帰の扱い。
主治医の復職診断書の提出。産業医との面接及び復職許可が必要になる。
一般的には、産業医、人事担当者、上司、本人(家族を含む)が連携し対応することが望ましい。
4. 欠勤および休職中の取り扱い
ケースごとに対応が異なるので、できれば職場復帰のスーパーバイザーをつけることが望ましい。
5. 復職の取り扱い
職場復帰には大きく分けると2つの型に分けることができる。
A型は、段階的プログラムによる復帰である。例えば、復帰から3ヶ月は出勤と退社の1時間ずつ短縮する方法である。通常勤務がAM9時からPM5時までとすると、復帰3ヶ月間はAM10時からPM4時までの短縮勤務となる。4ヶ月目から通常勤務となる。また、公務員は運用中で行われている場合もある。企業でも、規定は設定しないが、個別的ケースの対応の中で、実施的に職場運用の中で行われているのが実態である。
B型は、段階的プログラムによる復帰をとらず、原則、就業規則どおりの勤務が可能である場合が復帰と判断する方法である。労働災害保険の適応要件などを考えると、B型方式を取る企業が多い。ただし、現実には、主治医による、疾病の治癒の判断と、就業可能との間には乖離があり、産業メンタルヘルスでは、疾病の消失が、短絡的に、職場適応の成功を意味しない。この乖離を埋める職場復帰支援プログラムが不可欠となる。
以上

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