2011年2月11日

●事例:自傷の疑い 大騒ぎして責任を追及された上司と産業保健スタッフ
某理工系大学院卒業の木曽君(28歳)は「自傷とアルコール依存」が疑われている大学の講師です。大学や研究所には、専門分野にはずば抜けた能力を有するものの、その他のことはあまり関心がなくユニークで個性的な人がいます。木曽講師もそんな一人でした。
彼はいつも仲間から疎まれていました。なぜなら遅刻、欠勤で仲間に迷惑ばかりかけているからです。あるとき、健康管理室の医療スタッフに相談し、「夜は寝られずにお酒を飲んで、ついに登校しなくなることもある。実は死んでしまいたい」と語りました。担当スタッフは驚いて、安全配慮優先と判断し、本人の同意を得ず、学長に話しました。間接的に聞いた学部長は「これは大変、すぐに奥さんに学校に来てもらって」と考えて呼び出しを掛けましたが、奥さんは出てくることを拒絶しました。どうしたらいいだろうかと学部長は焦りました。
それを聴いた学長は話し合いが大事と、まず「フェーストゥフェース」で聞くために、木曽講師を呼んで直接しっかりと時間をとって話し合いました。すると、木曾講師は「死にたいと言ったのは、通常の冗談です。お酒もそんなに飲んでいません」と答えました。さらに「私の知らないところで、なんでそんなに騒ぐのか。私に知らせずなぜ妻に電話をするのですか。この学校のコンプライアンスはどうなっているのか」と厳しくつめ寄りました。

●解説
 このケースにはいくつかの問題点があります。

・健康管理スタッフが自傷他害の疑いがあるとはいえ、本人に同意をとって家族への連絡や上司との情報共有をするということを怠った(○○ページ参照)。
・学部長は木曽君に対して日頃から「人間関係が良くない勤務不良の講師、いなくなって欲しい」という内面的意識が働いていたため、「噂」話のみが進行してしまった。
・保健スタッフもカウンセリングなどの訓練がなく、言葉だけが先行し、(フェーストゥフェースであったにもかかわらず)非言語的なシグナルを読み取れず、「死にたい」「アルコール依存」という言葉だけを信じてしまった。
・メンタルヘルスは基本的人権を尊重しコンプライアンスの下に行うというルールが徹底されていなかった。

こうしたさまざまな問題はありますが、基本は日常からのフェーストゥフェースのコミュニケーションであり、それができていなかったことが最大の問題です。
筆者が行っているTHQストレス診断テスト(*)では、職場の人間関係の良否を数字にしたり、個々人のストレスをレーダーチャート式に可視化して個々人にフィードバックし、それを職場で共有しています。このような厳密なチェックを定期的にするという方法もあります。これにより、簡易的に「情報の齟齬」を見つけ出すことができます。
情報の齟齬が目立つ人には、上司であるあなたがきちんと情報を提供し、情報の齟齬を埋めつつ、「あなたをちゃんと見ていますよ」という情報の支援をすることです。