―――コラム:疾病アプローチから適応アプローチの流れ――ポジティブ心理学の要請―――
疾病モデルは「修理モデル」です。一方、適応モデルは「成長促進モデル」です。修理モデルとして産業医や精神科医が提供している社員のうつ病治療のメンタルヘルスももちろん重要ですが、「心の病」を防ぐためには、本書で筆者が提唱しつづけてきた「勇気づけ」や「ワーク・エンゲイジメント」のようなポジティブな面に注目していくことが必要です。
臨床心理学の河合準雄氏は「うつ病」のことをその心理のポジティブな成長促進の面に注目して「Creative Illness(創造的病)」と語っています。つまり、それを乗り越えれば成長があるという、「成長課題」と捉える考え方です。実際にイギリスでは、軽い「うつ病」や「不安障害」は薬ではなく心理療法でアプローチしていく方向に変化しています。
従って今後は、疾病アプローチと適応アプローチの両輪を軸として、アカデミックな観点から、怒り、悲しみ、不安、心配を受け入れ、肯定的・生産的な活動にむすびつけていくにはどうすればよいかを科学的に学ぶことが有効と考えられます。
これまでの「治療から予防」というパラダイムではなく「修理」から「成長促進」へという流れも押さえておきたいところです。この考え方により、メンタル不全のハイパフオーマの社員を失うどころか、さらなる成長へと結び付けられることになります。言い換えれば、生産性向上へと結び付けられるということです。その意味でも、ポジティブ心理学などの新しい観点からの考察は大いに参考になります。
ポジティブ心理学とは、ストレス・メンタル不全などのネガティブな要因ではなく、職務満足、モチベーションなどのポジティブな要因を考察しようとするものです。人間の持つ、活力、やる気、創造性などを向上させることに注目します。ワーク・エンゲイジメント(仕事への肯定的感情や態度)は、職務満足や組織コミットメントと相関すると考えられています。ワーク・エンゲイジメントを高めることにより、個人のメンタル不全の防止につながり、そのクロスオーバー効果による組織集団としての高いモラールにより生産性の向上をもたらすと考えられています。
―――コラム終了―――