山のかなたを見つめる赤鼻のおじさん。
2011年東日本大震災とともにすぐに心のケアのために福島に向かった。那須塩原を過ぎて。郡山駅に。情報ではバス便がいいということだった。駅員さん聞いたら磐越東線がすぐに出るという。電車で行くことにした。飛び乗った。乗客は地元の高校生がほとんどだ。私の目の前の方は年のころ50過ぎの赤鼻のおじさんである。他に見るものもないので、おじさんを見ていた。おじさんは一人ニヤニヤして、時折ぶつぶつ独り言をいう。アサヒのロングビールをチビチビやっている。つまみは大きな袋の地元のせんべいだ。10枚入りの大きめせんべいだ。平和に楽しそうに呑んでいる。あらかた、煎餅を食べたら、次は一粒の大きさのカステラの大袋である。これもうまそうに口に運んだ。ビールは2本目である。これで終わらずレジ袋からは、「ねじりカレーパン」が出てきた。実にうまそうにビール片手に食べていた。レジ袋が空になったところでおじさんは「いわき」に向かう電車から見える山々を眺めていた。駅に着くたびに開閉されるドアからは北国の冷たい風が吹き込んでくる。汗ばむ日曜日の東京の春の足音はまだ聞こえない。おじさんはズボンの後ろポケットから財布を取り出し「千円札」を数え、また山の彼方に視線を移した。山の向こうには「福島原子力発電所」がある。