東京の多摩動物公園のチンパンジー社会の研究によれば、そこには八つのルールがあるという。
① 朝の挨拶をすること
② グルーミング(毛づくろい)によって親愛の情を示すこと
③ 食事は優列順位(ドミナンス・オーダー)に従うこと
④ ボスは部下を可愛がること
⑤ ボスは侵入者に対して率先して戦うこと
⑥ 寝ぐらに帰る時は弱い者を優先すること
⑦ 喧嘩が生じたらボスは仲裁に入ること
⑧ 適正な分配が行われること
この八つの基本的ルールが守られなければ、チンパンジー社会の平和・秩序・安定・協調はたちまちのうちに崩壊してしまうという。
人間社会でいえば、道徳・規範・躾・価値観・慣習・職場内ルール等々といったものであろう。
しかしながら、昨今の風潮は、このような慣習や躾を軽視し、人間が本来重視すべきルールがその役割を果たさなくなってきている。
最も厳然とした規律と組織力を要求される「アメリカ海軍士官候補生」のリーダーシップ教本には躾や規範の重要性とともに、とっても意外に思われるかもしれないが、カウンセリングの必要性が強調されている。
例えば「アメリカ海軍初級士官の職務のうちで最も時間を使うものは、カウンセリングと面接である。部下との人間的接触を維持し、部下を認めてあげるための効果的リーダーシップの技術としては個人面接とカウンセリングに勝る方法はない」と強調している。
最も合理的である意味においては非人間的な組織である軍隊でさえ、即効性のない非効率的なカウンセリング技法を重視している点は興味深い。
人間の本質を扱う分野にハウツウは通用しないということであろうか。
われわれは、日常生活において”言語”を用いて意思疎通をしている。
言葉は人間のみが使い得る便利なコミュニケーションではあるが、”虚言”や”曲解”や”脱落”も入りうる。
チンパンジーのような動物の社会には”言葉”がない。それだけに直接的なスキンシップやグルーミング等の”非言語的手段”によるコミュニケーションができる。
非言語コミュニケーションには”虚言”や”曲解”の入り込む余地がない。
ありのままの”人”が投影される。
アメリカ海軍士官のリーダーシップにカウンセリング技法が重視されているのもここにポイントがあるのかもしれない。
軍隊でも組織でもチンパンジー社会でも本質的に求められている「リーダーシップ」は共通性があるかもしれないと思う。