切れ痔やいぼ痔は外科の先生に相談すれば治療できる。どうしても治らないのが「いこじ」である。過日、所用があり東横線の田園調布から菊名まで乗った。日曜日の昼下がりであるが車内は混雑していた。年のころ80過ぎの白髪のおバアさんが荷物を手にじっとたっているのに、びくともしない「いこじ3人衆」をシルバーシートにて発見した。
ムムムムムッッ、心清き品行正しいはずの東横線の中にかような人物がいていいのかと3分間即席ワンタンメンくらいに怒りが煮えたぎってきた。一応「エコと老人を大切にしようぜ」といったコンセンサスが雰囲気的にできてきている時に、この「いこじ3人衆」は「あっし達にはかまわねぃでくだせぇ」的にフンフンフンのフンといった顔をしているのである。
一番手前のかっぷくのいい黒ぶちメガネ男は、我が国鉄座席占有幅は61.2センチなのに、なんと巨体をいいことに80センチも占有しているのだ。さらに残念なのは大股ひらきやせ形長身男である。そして真紅の口紅、OL風美女がドーンと座っている。この場にもし座席とり名人おばさんがいて、大きな声で「田中さああああああん、シルバーシート譲ってもらったら、あんたスワンなさい、すんませーーーーーー」などとわずかの隙間もわが領土としてしまうのをたのもしく思ったりするのである。
「ごね得を許してはならない」という信条のもとに、黒ぶちメガネの靴のつま先をチョンチョンチョンとつつくが反応なし、大股開き長身男には「長き人生のりこえてきた白髪おバアさんに席ゆずれ過激鋭き目線攻撃ビーム」を発信するが、この男、むかしキンちゃん番組の「あっちむいてホイ」の達人らしく、左にむければ右、上にあてれば下とパッパッパッとかわされた。最後にベルリンの壁のごとく新聞紙を大股の上にひろげ己の世界に逃避してしまったのである。
三番目のOLは知らん顔、ついにおバアさんに席を確保してあげることはできなかった。ゴメンネ!
つづく