メンタルヘルス最前線④ 自分勝手にフィアンセを作り上げてしまう女子社員
総合心理教育研究所主宰 佐藤 隆
キーワード
1.リーダーのカウンセリング的アプローチ、2.カタルシス・トーキング
K子(28)は、製品技術管理のOLとして長年勤務をしていた。その間男子中心の職場にあって、K子は”職場の紅一点”、”花”、”アイドル”として人気を得て尊重され「自己満足的職場生活」を送っていた。
<新人女子社員へのジェラシー>
そこへ業務拡充のため、新人女子社員のS子が配属された。若くてういういしいS子が配属されてから、K子の心に妬みが高じ、先輩としての業務指導をするどころか「自分の仕事をS子にとられた」、「私をこの職場から追い出すつもりなのよ」などと告げ口をして歩き、職場内でS子を罵倒したりする、いじめの日々を続けた。
職場の中での公私混同的なK子の行動に対し上司、同僚、人事担当者も注意、叱責等を行い大いに手を尽くした。しかし、なにかというと泣き崩れる「女の涙」に男性が弱いのは歴史の証明するところであって、K子は面接中にも泣きながら、自分がいかに被害者であるかを切々と周囲に訴えることに終始するのであった。
また、K子は常に恋する女性であった。K子の恋は一方的であり、相手の同意もなく、勝手に相手の男性を好きになり、プレゼントをし、そして結婚を夢見るというパターンを繰り返していた。当然、その願望の対象の男性が他の女性と結婚すると、たちまち裏切られた悲劇のヒロインと化し、職場の同僚に自分の悲劇と相手の男性の冷酷さをあたりかまわず吹聴するのであった。
このような状態が続く中で、新人社員のS子はK子のいじめによるストレスをもろに受けることになり、「自分は耐えられないので退職したい」と上司に申し出た。フィアンセにされた男性たちからは「全く無関係であり、このようなことを吹聴されては困る」といった苦情が頻繁に出るようになった。K子に振り回されるために、職場の業務の効率も低下してきた。しかしK子は自らの問題意識を感ずるどころか、”悲劇のヒロイン”になりきっているため、周囲の人々に迷惑をかけている、業務の支障になっているという認識は全くなかった。
<まず職場と家庭の両方から配慮してみること>
このようなケースの場合、
①通常の職場の就業規則上のルール違反として厳重注意
②リーダーのカウンセリング的アプローチの二通りが考えられる。
本ケースの職場では、上司及び人事担当者が、かなり積極的に①のアプローチを進めてきたが、K子は泣きわめいてしまい、当人の問題意識を自覚させ、かつ、行動を是正させるには至らなかった。
そうなると②のカウンセリングによるアプローチが必要となる。
家庭でも職場同様、K子がトラブルを引き起こしているとすると、家族の協力を得てアプローチすることがベターであろう。家庭とはなんら関係ないとすれば、職場内でのストレスに対する反応と考えてアプローチした方が良いということになる。
この場合、問題解決のキーパーソンとして、リーダーのK子への対応が最も大きなカギとなることが多い。
<職場カウンセリングを成功させる条件、耳は二つ、口は一つ>
K子の上司は、職場のカウンセラーに相談し、「まず上司が、勇気を持って話を聞くようにすること。ちょうど耳が二つ、口が一つあるように、二回聞いて一回話すように」との助言を受けてK子と面接をした。
これは、相手の話をとことんまで聴くこと。通常のカウンセリングの場面で、クライアント(依頼人)がよくしゃべることができれば、この人にうっ積していたストレス(感情)の開放が発生する。精神分析学者のフロイトは、この感情解放のプロセスを、すばらしい劇に感動したときに経験される情動の解放を表すギリシャ語をとって「カタルシス」と呼んでいる。カウンセラーとクライアント、上司と部下の間で、このカタルシス・トーキングが促進されるならば、両者の関係は極めて良好に推移するだろう。クライアントや部下は、このカタルシス・トーキングを経て、初めて自分の心の奥底にある自分自身の欲求や願望や問題に気付くのである。
この場合はK子の心の奥深くに潜んでいる感情や不安や焦燥感を表出させることができるかどうかがカギということになる。
職場でのトラブルメーカーは、常に周囲からの被害者意識と危機感を持っていることが少なくない。それゆえに、カウンセリング的態度とは、相手を尊重し、無条件の肯定的関心を持つことから始めるのがベターである。
K子の上司は、このカウンセリングの法則のとおり話を聴くことから始めた。
その結果、K子の焦燥感、S子への妬みと寂しさが入りまじり、心を取り乱していたことが分かった。「上司が話し合いの場を持ってくれて良かった・・・」とK子は述べ、職場での迷惑行為はそれ以後減少した。
異常行動は必ずしも精神疾患ではない。