メンタルヘルス最前線② ”やり手主任が最近なんとなく無気力になってきた”
総合心理教育研究所主宰 佐藤 隆
キーワード
1.メランコリー、2.中高年の「心の危機」(ミドルエイジ クライシス)、3.ユング心理学、
4.ナンシー・メイヤーの「心の危機克服のための13の指針」
A子主任(40歳)は、目標を持って仕事をバリバリやってきた。給料もいいし、夫と二人で築いた立派なマイホームもできた。子供も二人とも素直にすくすくと育っている。自分の人生は成功しているし、何不自由ない。職場の人間関係もよい。しかし自分の心の中には、何かポッカリと穴があいたようで妙にメランコリーになってしまうのだった。職場の若手も「なんだか主任、元気がないみたい」と心配している。
<中高年の”真昼の峠”のメランコリー症状への処方せん>
40歳代のノイローゼ患者数は、数年前に比較して増加し、また男性の自殺者数では40代が最も多くなっている。アルコール依存症や睡眠剤中毒者も多くなってきている。
小生が数年前に行った「気分良く生きるためのストレス調査」では、アメリカ国立精神保健局の「うつ尺度」の20項目の中で、特に不眠を訴える項目に中高年の人々が多かった。さまざまな調査データを見ても、現代の中高年者はまさしく”ストレス世代”を意味するものであろう。
この悩み多き中高年世代の危機については、
①健康への不安感の増大
②メンタルな面での動揺
③やがて訪れる定年への不安
④ストレスと孤立
⑤人生下降曲線の自覚とゆううつ
があげられよう。
現代の人事労務制度のもとでは、安定保障がいずこの企業でも整備されており、40歳ころになれば、今後の自らの昇進の予測あるいは定年までの給料の推移、そしてその後の年金保障の金額等々、あまり誤差のない範囲で計算することは、そう困難なことではないだろう。
今までの人生とこれから進んでいく人生を考えたとき、「俺の後半のサラリーマン生活もこんなものか」と思うのか「まだまだ未来は明るく希望に輝いている」と見るのかによって「心の状況」が大きく異なってくる。
心理学者ユングは、「心の危機」について「人生の前半が昇る太陽であるとするならば、40歳を過ぎての後半の人生には、人は傾き沈んでいくことに人生の意義を見い出さねばならない」とし、この意義の変化には同時に”危機”も含んでいるとしている。
前述のケース、A子主任も「ヤレヤレ症候群」で一生懸命働き、なんとかうまくいってきた。ヤレヤレと思ったときに、「自分は何か大切なものを犠牲にしてきたのではないだろうか。人生の後半は何を目標に汗を流せばいいのだろうか・・・」こんな思いが心に訪れたのかもしれない。
ナンシー・メイヤーは、中年期に訪れるこのような「心の危機」克服のための指針をあげている。参考になれば幸いである。
<ナンシー・メイヤー「心の危機克服」の13の指針>
①中年の危機をまじめにとらえること
②悲しむ必要を認めること
③自分の人生に責任を持つこと
④自分の主義主張と目標を再評価すること
⑤新しい喜びを与えてくれるものを見つけること
⑥自分の感情に触れること
⑦からだを大切にすること
⑧セカセカ型の生活パターンをやめること
⑨現実的になること
⑩人生の棚卸しをすること
⑪自分の考えを他人に話してみること
⑫突然にあまりにも多くのことを考えないこと
⑬まず小さな変化を試みること
などである。